退職時の有休消化は拒めるのでしょうか?
突然、2ヶ月先の日付を退職日として指定した退職届と、明日から退職日まで40日分の有休取得届が提出された・・・・
退職時の有休消化はよくあるトラブルのひとつです。
これを避けることはできないのでしょうか?
もしもこれをされたら、会社は休暇の取得を拒むことはできません。
有給休暇の原則は下記です。
■労働者が請求した時季に与える必要がある
■会社には拒否権はない。ただし、事業の正常な運営を妨げる場合には「時季を変更」することなら可能
これを当てはめて考えると、通常であれば、会社は時季を変更する権利があるはずなのですが、退職時に限っては、変更すべき他の時季がなくなってしまうため、請求されたらその時季に与えなければならなくなってしまうのですね。
まさかの慰謝料請求
ある会社では、退職時に有休休暇の消化を求められたため、社長がついカッとなって「そんなこというならもう明日から来なくていい!」と言ってしまいました。
言われた側の従業員は「解雇された」と思ってそのまま出社しなくなりました。
数ヵ月後・・・・従業員からの不当解雇を不服とする慰謝料請求が。
「だって、どうせやめるつもりだったんでしょ!?」
従業員の退職希望時期が2ヶ月先なのに、その前に会社側から退職させるのであれば、その時点では無理やりやめさせらた=解雇と受け取られる可能性があります。
慰謝料請求等、弁護士等に依頼して裁判を起こすのはなかなか費用も勇気も必要ですが、こういった相談は労働基準監督署の窓口では無料で受け付けています。そして、労働局の「あっせん」であれば、慰謝料請求も非常に簡単に無料でできてしまうのです。
まさか、うちの会社の、あの従業員が。そんなつもりじゃなかった、は当てはまらないのです。
法廷であらそえば、これが事実上の解雇なのか、どちらの言い分が正しいのか、白黒つけることは可能でしょう。しかし、そのために費やす時間と労力は並大抵のものではありません。
このような事態がそもそも発生しないための、日ごろからの対処が必要なのです。
では、退職時に有休消化を要求されたらどのように対応したらよいのでしょうか?
退職時に有休休暇を一括取得されたら
たとえば、2ヶ月後の日を退職日として明日から有休消化したいといわれた場合どうするか。
代表的な対応としては、下記のパターンでしょうか。
1.退職日を後ろにずらしてもらい、引継ぎに支障がないようにする
2.退職日はそのままで、有給休暇を買い上げる等の交渉をして引継ぎに支障がないようにする
3.言われるままの条件をのむ
1.退職日を後ろにずらしてもらい、引継ぎに支障がないようにする
「明日から出社しません」といわれて一番困るのは、引継ぎの問題でしょう。
この場合は、退職日を後ろにずらしてもらう交渉をすることがあります。ただし、転職先が決まっている等で応じてもらえない場合もあります。
有休消化中も社員としての身分は残るため、社会保険料等の負担が発生します。
退職金が年数に応じて変動する場合は、この在籍期間も年数にカウントされて退職金の額が変わる場合もあります(退職金規程によります)。
2.退職日はそのままで、有給休暇を買い上げる等の交渉をして引き継ぎに支障がないようにする
有給休暇の買い上げにかかる金額は法律に定めがないため、当事者同士で自由に決めることができます。1日いくら、と決めることや、平均賃金で決めることも差し支えありません。ですから、単価を抑えることも可能になります。従業員としての身分がなくなるため、社会保険料も発生しなくなります。
3.言われるままの条件をのむ
会社としての対応が可能であれば、いわれた条件を受け入れる、ということもあるでしょう。
実際に、退職時の有給休暇は使用させるルールにしている会社もあります。
退職時の有休一括消化に対応するために
業務の引き継ぎを適切に行ったうえで、最後に有休の取得を請求してくる場合は、拒みようがありません。こういった場合に備えて、企業としては、人を採用した時点から、有給休暇分はコストとして費用を計上しておいた方がよいでしょう。それと共に、従業員が心地よく働くことができるためにも、有休はためないように、適宜消化できるような労務管理が必要です。
一方で、いきなり「明日から出社しません」と言ってくるパターンはどうでしょうか?
会社としては、突然業務に穴があくこともあり、大変困るパターンです。
さて、従業員がこういってくる背景は何でしょうか?
まずは、就業規則等により、退職時には業務の引継ぎをきちんと行うよう教育を行っておくことは重要です。
それと同時に、突然翌日から出社しないと考えている場合は、その従業員が在籍中の間に何かしらの不満があり、ずっと我慢してきたという背景があって、退職時にここぞとばかりに全ての権利を主張しようとしてくるパターンが多いです。
正常な大人が、責任を持って、正常な人間関係の中でその業務についていたとすれば、自分が突然いなくなれば、残された同僚がどのような状態になるかは想像ができるはずです。それを押し切っても権利を主張したい、そんなの関係ないほど不満がたまっている、そのような状態であるからこそ、ネット等での情報を駆使して、最大限有利な条件を獲得しようと策を練ってくるわけです。
このような状況の下では、どんなに万全の就業規則や懲戒規程があったとしても、あまり有効ではありません。最も有効な対策としては、日頃からの労務管理と信頼関係の構築をはかることが、遠回りなようで、もっとも近道といえるでしょう。