今さら聞けない兼業と副業

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今さら聞けない兼業と副業

兼業副業解禁!

というワードが話題になってから数年経ちました。
政府が兼業副業の推進を本格化したのは2018年のことでした。

当時はずいぶん話題になったものの、しばらくこの話題は落ち着いていたように思います。それは興味関心・需要がないというよりは、兼業副業が特別なものでなく、世の中の価値観として「当然のものになってきたから」であると想定しています。

しかし最近あらためて兼業副業に関するご相談が増えてきました。
そして、そのご相談内容が、数年前とずいぶん変わってきています。

副業解禁当初多かったのは「今後は認めなければいけないのか(本当は制限したい)」「今後どうするべきか」「世の中はどうなっていくのか」というような「予防的知識」に関するものが多かったです。しかし最近は「実際に兼業副業をしている社員がいる」ことが前提の、目の前の現実の問題としてのご相談が増えているように思います。

また、ひと昔前のように、「兼業副業=いかん!」と考えるよりは、兼業副業に対して「ご自由にどうぞ」と寛容に考えているケースも少なくなくなっています。人材難や多様な働き方が叫ばれる昨今、従業員にとっての「魅力的な会社」を実現すべく、兼業副業を認めたいというご意見も少なからずいただきます。

そこで改めて、会社は兼業副業とどう向き合うべきか、整理してみたいと思います。

兼業副業を認める、認めたくない、どちらの場合も行うべき対応

兼業副業に関しては、認める場合も認めない場合も必ず、就業規則に以下を明記しておくことをお勧めします。

・兼業副業を行う際は会社に届出ること(禁止とならない範囲で許可制とすることを推奨)
・秘密保持について定めること
・職務専念義務について定めること

兼業副業を認める方針だからといって、会社で何も把握せずに従業員にただ任せて自由にしてもらうのは危険です。なぜなら、兼業副業を認めることによって「自社の事業運営に支障が出ないように」することが大前提であるからです。

原則として会社は従業員の兼業・副業を禁止することはできません。 憲法で保障された「職業選択の自由」があるため、従業員が就業時間外のプライベートな時間に他の仕事を行うことは基本的に自由とされているからです。

しかし、以下の場合には兼業副業を制限することができるとされています。

【兼業副業を制限することが可能な4つの要素】

① 自社での労務提供上の支障がある場合
② 業務上の秘密が漏洩する場合
③ 競業により自社の利益が害される場合
④ 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

「副業・兼業の促進に関するガイドライン」厚生労働省より抜粋

ですから、兼業副業を認める場合でも「上記4パターンに該当しない範囲で行ってもらう」ということが鉄則です。そのためには、兼業副業先の業務内容や作業負荷、作業時間等について、必ず申告してもらい、会社として把握しておくことが必要となります。

では、それぞれ検討ポイントを見ていきましょう。

① 自社での労務提供上の支障がある場合

兼業・副業によって疲労が蓄積し、本業のパフォーマンスが著しく低下する、あるいは長時間労働になり健康を害する恐れがある場合、等が該当します。

基本的には、自社での就業時間と副業先での労働時間を合わせて、最大でも月160時間~月200時間くらいに収まる範囲で認めるのがよいでしょう。

なぜなら、月160時間、月200時間とは、以下を意味するからです。

月160時間:概ね労働基準法が定める原則の労働時間(1日8時間、週40時間を月換算)
月200時間:概ね労働基準法が定める時間外労働の上限(月45時間)より少し少なめ

厚生労働省からは、過重労働による健康障害について、以下の資料が提示されています。

「過重労働による健康障害を防ぐために」(厚生労働省)

時間外労働時間が月45時間を超えると健康障害のリスクが高まるとされています。

兼業副業を行うことによって、時間外労働が月45時間を超えるのと同等の状況になってしまうとしたら、従業員の健康を守れないことになりかねません。

自己責任でよいのでは?という意見もありますが、仮に自己責任だからと本人に任せて結果的に過重労働で健康障害を起った場合に、自社では適正な範囲で就業させていたとしても、責任の所在が非常に不明確になります。それに、自社の従業員をそんなリスクにさらしたくないですよね?

また、過重労働の状態となっている従業員について、副業で疲労した状態で自社の業務で求めるパフォーマンスを発揮してもらえるのか?という問題もあります。集中力の低下、いねむり、様々な問題が起きてきます。
自社で残業を命じたい場合に、副業を理由に断られることがあったら自社の事業運営に影響をきたすことにもなりえます。

さらに、自社での就業中に副業先の業務を行ってしまうという懸念もあります。リモート作業が容易になっている昨今ではよくあることです(これそのものは容認する会社もありますが、自社業務のパフォーマンスが下がることは否めません)。ですから、就業規則で職務専念義務について明記したうえで、兼業副業を行う際にも改めてこれについて周知する必要があります。

これらを総合的に考慮し、従業員が著しい過重労働に陥らないよう、自社の就業に影響がでないよう、会社として認める範囲を検討することが必要です。

一般的な状況でいいますと、フルタイム正社員について兼業副業が認められているケースは多くありません。理由は前述した過重労働の問題と、労働時間の通算の問題があるからです(※)。世間で兼業副業が増えているといっても、その内容としては、「自社での就業が週4日未満」「副業先が雇用でなく業務委託」というケースが圧倒的です。「今時」とトレンドで考えるのでなく、自社の実態をみて現実的な対応を考えることをお勧めします。

※兼業副業が「個人事業」や「起業」でなく、「他社で雇われる場合」については、労働時間の通算の問題も発生しますが、これは非常に複雑なので今回は省略します。

② 業務上の秘密が漏洩する場合

従業員が同業他社で兼業副業を行う場合、会社の機密情報や顧客リスト、開発中の技術やノウハウが意図せず、あるいは意図的に漏洩するリスクがあります。

例えば、競合他社で似たような業務に携わることで、自社の営業戦略や価格設定、新製品の情報などが相手側に渡ってしまう可能性が考えられます。また、普段使っている業務用PCやUSBメモリに機密情報が残ったまま、副業先のPCに接続してしまい、情報が流出するといったケースもゼロではありません。

悪気はなくても日常会話で漏れてしまうようなこともよくあることです。

特に兼業副業先が同業他社である場合は慎重な判断を行うこと、及び、就業規則で秘密保持義務や競業避止義務について明確に規定し、従業員への周知徹底を図ることが重要です。

③ 競業により自社の利益が害される場合

従業員の兼業・副業が、自社の事業と直接的に競合し、会社の利益を不当に害する場合、それは「競業避止義務」に違反する可能性があります。

例えば、自社と同じ製品を扱う競合他社で営業職として副業を行ったり、自社の技術を応用した商品を開発・販売したりするケースなどがこれにあたります。このような行為は、自社の顧客や技術、ノウハウが流出し、営業秘密の侵害や売上の減少に直結する恐れがあります。

会社は、就業規則や個別の秘密保持契約などで、従業員が在職中に競業行為を行わない義務を明記し、従業員に周知しておくことが重要です。万一、競業避止義務違反が発覚した場合は、事実関係を確認し、適切な措置を講じる必要があります。

④ 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

従業員の兼業・副業の内容によっては、会社のブランドイメージや社会的信用を大きく損なう可能性があります。たとえば、従業員が副業として反社会的な活動に関与したり、公序良俗に反するビジネスを行ったりした場合、それが発覚すれば、本業である会社も世間から批判の目で見られることになります。

また、会社の従業員として知られている人物が、SNSなどで企業の不祥事を扱うゴシップ系アカウントを運営するなど、会社の品位を貶めるような活動を行うケースも考えられます。これらの行為は、直接的に会社の利益を侵害せずとも、企業イメージの低下を通じて間接的に多大な損害をもたらす可能性があるため、会社は就業規則で明確に制限を設けるべきです。

従業員から兼業・副業したいと相談されたら?

これらを踏まえ、従業員から兼業副業の希望があった場合、具体的にはどのようにしたらよいのでしょうか?

まずは兼業副業の内容を具体的に確認しましょう。下記の内容についてです。

■兼業・副業の内容
 どのような仕事をするのか、業種、業務内容などを確認します。
■労働時間
 どのくらいの時間、兼業・副業に充てるのかを確認します。
■会社の業務への影響
 本業に支障が出ないか、健康面で問題がないかなどを確認します。

これらの情報を踏まえ、前述した制限理由に該当しないかを確認します。もし就業規則に兼業・副業に関する規定がない場合は、これを機に整備を検討することをお勧めします。

許可をする場合は、「兼業・副業に関する誓約書」などを交わし、本業に支障が出ないことや情報漏洩のリスクがないことなどを改めて確認するのも良いでしょう。

従業員が兼業・副業をしていることがわかったら?

もし従業員が会社に無断で兼業・副業を行っていたことが判明した場合は、すぐに懲戒処分にするのではなく、まずは事実関係を慎重に確認しましょう。

■事実確認
 どのような兼業・副業をしているのか、本業にどのような影響が出ているのかなどを本人からヒアリングします。
■就業規則の確認
 会社の就業規則に兼業・副業に関する規定があるか、その規定に違反しているのかを確認します。

そのうえで、状況に応じて慎重な対応が必要になります。

■軽微なケース
 本業への影響が少ない場合や、就業規則の周知が不十分だった場合などは、口頭注意や指導に留めることもあります。

■本業に支障が出ているケース
 兼業・副業が原因で本業の業務に支障が出ている場合は、具体的な改善を求めます。

■重大な違反があるケース
 情報漏洩や競業避止義務違反など、会社の利益を著しく害する場合には、就業規則に基づき懲戒処分を検討せざるを得ない場合もあります。ただし、その場合でも、処分の妥当性や公平性を慎重に判断する必要があります。

いずれの場合も、感情的にならず、客観的な事実に基づいた対応を心がけることが重要です。

柔軟な働き方が広まっていくからこそ、兼業副業は基本的には従業員の自由でありつつも、会社の事業活動に影響がないよう、注意していくことも必要です。

 

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